すべては一冊のメニューから始まった。作り手の想いを、料理で繋ぐ、宮崎の旅。

メニューデザイン研究所に社名変更して2ヶ月が経とうとしています。社名が変わることで “何をやっている会社” なのかがはっきりしました。ですが社名変更に伴う変革はそれだけではありません。

メニューデザインを通じて人を幸せにする企業へ。そうあるべきだと感じる出会いがありました。メニューの価値を信じるからこそ触れ合えた人と風土。社名が変わる少し前のエピソードをMEDIYライターの山﨑がご紹介します。

 

目的はメニューブックを届けるため?

2018年11月、研究所メンバーが向かった先は宮崎県です。幾分の肌寒さはあるものの日差しは柔らかく温かい ”日本のひなた宮崎県” です。

 

ミスマッチにも思える生産者取材

宮崎での主な目的は、

  • 農家さんの人物写真の撮影
  • 畑、野菜の写真撮影
  • 生産者さんの物づくりへの取材

しかしなぜメニューデザインをつくる者達が、生産者の取材を行うのか?それには一冊のメニューブックとお店の存在がありました。それについてはまた後程に。

 

綾町の生産者に会いに行く

宮崎空港から内陸に向かって車で50分。宮崎県の中西部に位置する綾町(あやちょう)にやってきました。綾町は美しい山々から湧き出す清らかな水を最大限に活かして、様々な特産物が生産されています。お酒づくりも盛んで特に「綾ワイン」は県内外でも人気の名酒です。

 

有機農業をいち早く取り入れた町

そして綾町は有機農業の町としても知られています。化学肥料や農薬がもてはやされていた昭和63年に綾町は全国に先駆けて「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定したことから始まりました。

30年以上に渡り有機野菜を作り続けてきたことになります。条例化の根底は、自然のまま、大地の恵そのままの野菜を届けたいという想いからでした。そしてこの地に若くして帰農し、伝統の有機農業を今に受け継いでいる福重さんの元を訪ねました。

 

有機農業を今に受け継ぐ福重さん

普段なら出会うことのない二人が今こうして対面しています。前もってコーディネーターからの説明はされていましたが無理もありません。生産者の福重さんにも一瞬戸惑いが生じます。そしてメニューデザイン研究所のアートディレクター北條がカバンから取りだしたのは「万作」と書かれた一冊のメニューブックでした。彼はこのメニューブックをどうしても福重さんに見せたかったのです。

 

宮崎県の老舗「万作」

万作

すべての始まりは「万作」というお店にあります。1934(昭和9)年創業という歴史もさることながら、創業当時から親しまれる定番の串焼き、うま煮、湯豆腐は今でもなお健在です。それどころか定番の味を求めやってくる客の9割が常連といいます。県内外から愛され続けられるお店なのです。

この評判を聞きつけ宮崎を訪れる度に足を運んでいたのが、HYアンドパートナーズ代表の山本さんでした。いつからか「万作」を訪れるために宮崎へ行くという程に、お店への愛情は深く、ついには同じ屋号のお店を東京に出店するまでに至りました。

 

想いを繋ぐ手段が「メニューブック」だった

85年という時が経った今も尚、愛され続けられるには理由がありました。お客様はもちろん、食材とそれらを育む生産者、そして宮崎県の豊かな風土への感謝がありました。創業から変わらないメニューは、敬意のあらわれなのです。そのことに山本氏は気づき、屋号を受け継ぐにあたり、同じ想いに応えたいと考えたのでした。

【飲食店】 ⇔ 【消費者】の関係だけにあらず、【生産者】 ⇔ 【飲食店】 ⇔ 【消費者】で想いを繋げる。

「生産者」がつくった作物がどのように料理され「消費者」に届けられているのか?それを伝える手段がメニューブックだったのです。

 

「お品書き」では伝わらないもの

単に商品の内容を伝えるだけの「お品書き」は、「万作」に関わるすべての想いに応えることができるのでしょうか?メニューはもっと飲食店に寄り添い、消費者とを繋ぐものだということを山本さんから気づかせてもらいました。

「生産者」には「生産者」の想いがある。
「飲食店」には「飲食店」の想いがある。
メニューは「お品書き」だけで良いのか?
それだけで本当の想いは届けられるのか?

飲食店の数だけ、それを支える生産者の数だけ「想い」があるのなら、「お品書き」は「想い書き」であるべきだと私達メニューデザイン研究所は考えます。

 

作り手の想いを、料理で繋ぐ

作り手の想いを、料理で繋ぐ。

北條:生産者さんの取材を通じて、メニューデザインのコンセプトにしたのが「作り手の想いを、料理で繋ぐ」でした。

北條:「天・地・人」その全てに恵まれて、初めて産まれます。その厳しさを知る作り手たちは、毎日自然と向き合い感謝し、自分たちに許されるだけの手を加えることを、取材を通じて知りました。そして自然によって育まれた素材たちは、何者にも敵わない強さ、おいしさを持っています。その強さ、おいしさをそのまま活かし料理にする。それができるのが「万作」なのだと思いました。

取材協力して頂いた生産者のみなさん

ここ宮崎でも時として自然の猛威は牙をむきます。それでも出会った生産者さんは自然に生かされているからと静かに語られたのがとても印象的でした。福重さんを始め直向に大地と向き合う生産者の方々をご紹介します。

 

福重さん(キャベツ/小松菜/水菜/ほうれん草/長ネギなど)

父親が築いた農業経営を継ぐべく若くして都会から帰農。栽培方法にもこだわり農薬もほとんど使用しなく綾町の名水をふんだんに使って育てた野菜は消費者から絶大なる信頼があります。

 

北野さん(じゃがいも/人参/長ネギ/生姜/にんにくなど)

厳しい「有機JAS規格」を取得し、完熟した有機肥料で豊かで安全な土を作り、GMO(遺伝子組み換え作物)ではない種子を使い、全てのものが循環し、永続的に持続可能な生産体制を構築し、おいしくて安全な野菜を全国へお届けしています。

 

宮崎産業 重永さん(しめじ/白しめじ/エリンギ/平茸)

農産物はその作物が育つ環境で、同じ作物でも違う味が風味・触感をもつものと考えることの方が自然です。きのこづくりの職人が、皆様にこの繊細でいて「生命力溢れる健康きのこ」をお届けします。

 

綾ぶどう豚‬ 岩切さん

綾町でたった2軒の生産者しか育てていないとても希少な豚です。 その飼育環境は豚のことを考えてストレス のかからないよう工夫されており、広々とした豚舎でのびのびと育てられます。

 

「メニューデザイン」で想い繋ぎます

様々な想いが集まって飲食店はできているのだと気づかされる旅でした。この旅がなかったら、作り手である私達も生産者の方達を想像することなくメニューをつくっていたでしょうし、お店でも目の前にある料理をただ食べるだけだったのではないかと思います。

たかだかメニューでそこまでしなければいけないのか?このようなご意見もあるかもしれません。それでも私達メニューデザイン研究所は「飲食店=想い」がある限り想像し、そこから創造することが使命だと考えます。

飲食店の驚きも個性も楽しさもまだ開発しつくされてはいません。魅力はもっと研ぎ澄ますことができます。ページをめくるたびに出会える感動がお店ごとにあっていいはずです。

メニューデザインの力を信じればその先に新しい出会いがあることをまた信じています。世界中の「お品書き」が「想い書き」へ変わるまで私達の挑戦はまだ始まったばかりです。